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2012年11月18日(日) 12:48
目が覚めると隣に誰もいなかったから、昨晩のことはまぼろしだったのだと思った。でも私は全裸だったし、ベッドには私の黒いのの他に茶色の髪の毛や陰毛が落ちていたし、周りを見れば彼の服や装備もそこらに散らばっていたし、彼の荷物も私のに寄り添っていた。
昨晩のことが真実だと分かると、急に彼のむきだしの腕の感触が思い出され、私は裸のままシーツに逃げ込んだ。 「あ、起きたの?おはよう」 バスルームから洗濯物を持って出てくると彼は軽くキスをしてくれた。どぎまぎしながら私も同じものを返して、彼から受け取った服を着た。頭を撫でられたので私も真似して、そのままベッドの上でお互いの髪を梳かし合っていると、彼は思い出したようにカーテンの閉まった窓を見た。 「どうしたの」 「あのさ、おはようって言っといてなんだけど、もう昼だよ」 「えっ」 窓に駆け寄ってカーテンを捲ると、太陽はかなり高い位置にあった。メシアとして教育を受け始めて今まで、寝過ごしたのは初めてのことだった。 私は窓の前で立ち尽くした。仮初めの六本木を形作る建物群、その向こうに広がる瓦礫の砂漠が、今までと全く違って見えた。途方もない来し方と行く末を暗示されているようで、段々目の前が眩んでくる。ふいに後ろから抱きしめられた。 「昔は、六本木と渋谷の間もずっと建物が建ってた。道路が入り組んでた。どこにでもいくらでも人が住んでた」 彼の掠れた声を聴きながら、私は、ぼんやりとした前の私の記憶を追った。彼と出会った新宿も、彼と駆けた道も、今の私が見ている世界とは全く違う。 私は彼と同じ高さでものを見ていた彼の友人たちに見苦しいほど嫉妬した。側にいることを一番望んだはずの私が彼の魂とはぐれているうちに、彼とどんな旅をしていたのか問い詰めたかった。どんな仕草が彼を傷つけたか、失望させたか、見とがめて上げ連ねてなじりたかった。 最初彼が私に触れるのを怖れた訳は、彼らとの関係に隠されているはずだ。 「しばらくは六本木でいいよね、住人はあんなだけど、都市は機能してるし」 「あなたが嫌じゃないなら、別にいいけど」 そのとき彼の目によぎった影の色を見極めようと顔を覗き込むと、額に唇を押し当てられた。彼の口元には気紛れな笑みがある。 「靴穿いてないから、いつもより小さいよね」 「はぐらかしてんじゃないわよ」 彼と友人たちの交流を知らない私には何も言えないからせめてガラス細工のような背中に手を回した。 なぜこれまでの長い間側にいることが私にはできなくて、友人たちにできたのだろう。なぜ彼に会うまでこんなに時間が掛かったのだろう。なぜ私は生きたり死んだりするのだろう。私は私が恐ろしかった。 彼は今度こそ自分から手を伸ばしてきちんと私を捕まえて、私に感覚を与えてくれた。得体の知れない私が生身の女であることを教えてくれた。だから彼を恨む気持ちは少しもない。 俯いて彼の胸に頬を当てながら、私は思った。 あなたに愛されたとき、目の前の闇が唐突に裂けて、ただ一人歩き続けた孤独が報われたことを、私は生涯忘れないだろう。そしていつかあなたに光を与える唯一の存在になりたい。友人の如何がどうでもよくなるくらいあなたの気を引きたい。そのためにもう一度生まれたのだと信じている。 PR |