2025年05月16日(金) 04:49
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2011年12月28日(水) 14:38
昨日からの雨が鬱屈した部屋に降り注ぐ。陰鬱な香りが部屋を占拠する。物憂げなまばたきが湿度を上げる。泥のように流動するシーツは底無し。耳元に反響する窓越しの水音は動きを支配する催眠術。閉め切ったブラインドが濡れた空気と外気とを隔絶する。怠い。顎と指が痺れている。同じからだを愛してから、時間をも失った。暗い雨の日にパソコンとベッドと本棚のある六畳間で行うセックスは完成されたノクターンに耽溺することだと知った。
「ナオヤ、指を頂戴」 きみを手に入れることは到底征服できないすべてを抱くこと。掛け値を引き下ろすことはない。慇懃に差し出された人差し指を吸えば青白い手首はぼくのもの。 「キミを連れて行きたいよ」 「どこへ?」 きみの頭を抱くと柔らかな髪の毛が頬に貼り付いた。 「運命の一切が通用しない所」 耳のうぶ毛に囁くときみはきゃあと体を揺らした。その仕草が興を殺いだ。ふと怒気の湧いたようなそれは殆ど殺意だった。ただその怒りを抑えた。 立ち込める煩雑と突沸する激怒から心を取り返して目を閉じ、舌で歯の数を確かめてから唇をこじ開けた。 「なんちゃってね」 蜘蛛の巣のような髪の毛を払い幽霊じみた肌を遠ざけ絡みついたシーツをほどく。湿度が高く息がしづらい。足を付けるとフローリングも生ぬるく気持ち悪い。不思議そうにこっちを見ている赤い目が白々しい。手に持ったシーツを横たわる彼女の方に投げるときのすっぱい臭いがぼくの胸に黒点を穿つ。 きみが柔らかくぼくを迎え入れるほどに空しい気持ちが襲ってくるのはなぜだろう。無論知っているから苛立っている。 「おまえが私を幸せにしてくれるならそれ以上のことはないけど、」 白い腕はしなやかにぼくの手へ伸びる。 「おまえは私の側にいてくれるよね?」 これが10分前だったら一も二もなく勿論だよ永劫一緒さと応えただろうが、覚めたぼくには嘘をついてまできみを喜ばせることができないよ。嘘をつけば本当の気持ちから遠ざかるのはきみを見てよく知っている。 出会った昼下がり、一番最初から、ぼくが吐いている嘘を早く見抜いてよ。見抜いて許して受け止めてよ。簡単でしょ? だから本当とか真実とか形なきものを、この手の持たないものを求めたりしないで! ひとつめの嘘に気づいて欲しい、そうでないならふたつめの言葉が真実だって、どうしたら自信を持って教えることができるのだろう。不可能だ。 「計算してきみに恋をしてる訳じゃないから・・」 むしろそうだからこそ自分の首を絞めてるんでしょう。 今のぼくは嘘で身を隠しているから本当の言葉を作れない。早く全部解ってよ。傷つけてもいいから。 「その、約束できないよ」 全部が全部冗句から。嘘の印象を抱いてしまっているのにそんな、腹を開かすような真似しないで。信じちゃうから! 「そんなこと言うなんて思ってもみなかった、ロキ、おまえ、」 ああ問いただせばよかった。締め切ったこの部屋はよく声が通る。 わかるでしょうぼくの目の前にやってきた常闇が。わかるでしょうぼくはもう眠たいの。だから理解できない言葉は要らないよ。泣かないで。ぼくを困らせないで。真実を希求しないで。理由を要求しないで。 「私を導いてはくれないの?」 お願いだから眠らせて寝言は言わないから夢も見ないからもうきみを本当の目に映さないから。暗い気持ちなんて皆目しらないふりをするしもう一度その胸で圧し殺して。ぼくがきみを助けてあげるって言ったでしょう。あれだけが本心で滞りなく遂行された真実だったのに。 ジュビア PR |